こうなる!
みたいなのの
パイロット版。
辻タダオ野球小説(仮)
やれやれ
また投手がストライクを取れず
どうやら試合は長引く感じだ。
ぼくは隣に座っている
商社勤務の由美子に
つまらない試合になったね
と言ってはみたが
由美子は野球そのものに興味がないので
上の空
なのか
と思いきや
ぼくとの「デート」に気合いをいれてきたのか
いま目の前で戦っている両チームの選手の
あらゆるデータを頭に叩き込んでいるようで
山田の長打率※(巻末)
※四球率(巻末)
とか
相手チームの投手の防御率※(巻末)
や与四球率※(巻末)や奪三振率※(巻末)
そして被打率※(巻末)
なんかを
スマホであっというまに調べ上げて
「いま雄平だから
まだまだ予断を許さない状況よね」
とか言うので
生涯135000本目の
タバコを喫煙所に吸いに行こうかなあ
って浮かした腰を
いったん座席に沈めた。
そんなことを言う由美子は
きっと
人生に何か空虚なものを
感じているのにちがいない
と思ったぼくは
もう試合はどうでもいいから
西麻布あたりで
美味しいパスタでも食べない?
ってちょっと声をかけようとしたんだけど、
なんだか
「いま打席にいるのは
あたしの雄平!」
みたいな表情になってるのが
ナイーブでセンシティブなぼくには
手に取るようにわかったので
やめておいた。
もう野球場に女の子と
一緒にくるのはやめておこう。