深夜。
ほろ酔いと泥酔の中間、
くらいな状態だった。
自宅まで数百メートル、
軽く便意も混じった強い尿意を
催していたので関係者以外立入禁止の
小学校の校庭を斜めに突っ切って
一刻も早く目的地の玄関脇のトイレに
辿り着こうと試みた。
門扉は高くないのは分かっていたので
難なく無理ない所作で侵入した。
ベルトを外しボタンを緩めて走った。
不自然な姿勢ではあったが
それでも右手で裾を押さえていれば
何とかスピードを保って距離も稼げると
思った矢先にズボンの裾を踏んだ為か
それまでに経験したことの無い
とてつもない勢いで前方に転倒した。
恐らく足の腱が切れ、
顎も強打し目に砂利も入った。
全く動けず声も出ない。
ズボンと一緒にトランクスも
ずり下がり失禁脱糞状態になったが
どうにもならない。
何も取り繕うことが出来ない。
スマホは尻ポケットに入れてた気がする。
ということはもうアレな状態だと
推察出来はしたが対策も取れない。
ほぼ校庭の真ん中、
誰にも見られない、知られない、
そして雨が落ちて来る。
低体温症という言葉が浮かぶ。
自殺とは思われないだろうが
自損事故の状況でアルコールも入ってる。
世を儚んでのヤケ酒野垂死にと
解釈される余地も僅かに残る。
自殺じゃなく事故だと伝える為に
降り始めた雨の中で「じ」と一文字
書いたところで低体温うんぬんの前に
どこかの打ち所が悪かったのか
喉、鼻、口に血の感触が行き渡って
すぐさま意識が遠のいた。
自分のこの
惨状とは無関係に
そう遠くない場所で
連続猟奇殺人が起きていたので
後に語り継がれ、
迷宮入りするその大事件において
「校庭の謎の変死体」として
他ならぬこの私が
彩りを添えることになった。
人生随分回り道をしたが
最後に近道をしたおかげで
少しは世間に名前が売れた。